所沢で子どもたちの未来をサッカーでつなぐ|アヴィエールスポーツクラブを訪ねて

埼玉県所沢市を中心に活動する、中学生年代(U-15)のジュニアユースサッカークラブ「FCアヴィエール所沢」。

株式会社ひなたは、FCアヴィエール所沢のサポーティングパートナーとして、クラブの活動を応援しています。地域で活動するクラブについて、もっと多くの方に知っていただきたい。そんな思いから、実際の練習を訪ねました。

代表監督の田中祥央(たなかあきお)さんに、クラブ設立のきっかけや育成への思い、選手たちの進路、そして所沢という地域への思いについてお話を伺いました。

サッカーの技術だけではなく、田中さんが大切にしているのは「自立と自律」。取材を進めていくと、学業や食事、安全管理、さらには選手たちが高校へ進んだその先まで見据えていることが分かってきました。

所沢でサッカーを続けたい中学生とそのご家族にとって、クラブチームはどのような場所なのか。実際の練習風景とともに、FCアヴィエール所沢の取り組みをご紹介します。

所沢のジュニアユース「FCアヴィエール所沢」とは

FCアヴィエール所沢では、中学生年代のジュニアユースを中心に、小学生を対象としたサッカースクールも運営しています。ジュニアユースの選手は所沢市内から通う子どもたちが多く、日々のトレーニングに加え、試合や遠征などにも取り組んでいます。

クラブを率いるのは、代表監督の田中祥央(たなかあきお)さんです。

現在の活動だけを見れば、所沢にある一つのジュニアユースサッカークラブですが、田中さんに話を聞いてみると、このクラブが現在の形になるまでには、当初から描かれていた計画とは少し違う経緯がありました。

なぜ所沢にジュニアユースのサッカークラブを立ち上げたのか

田中さんがFCアヴィエール所沢を立ち上げるきっかけの一つになったのは、自身の息子さんが小学校6年生だったころのことでした。

中学生になってもサッカーを続けることを考えたとき、身近なところに「預けられる、信頼できるチーム」がなかなか見つからなかったといいます。

当時、田中さんは会社員として働きながら、別の法人が運営していたジュニアユースのチームに、土日や祝日を中心に指導者として関わっていました。

ところが、その法人が中学生部門から撤退することになります。

すでにチームには、田中さんたちが指導してきた選手たちがいました。そこで田中さんたちは新たに法人を立ち上げ、それまで活動していた選手たちを引き継ぐことにしました。

「預かったからには、ちゃんと卒業させなきゃいけないでしょう」ならば、自分たちで法人を立ち上げ、選手たちを新しいクラブへ移そう。

そうして現在につながるクラブの運営が始まりました。

田中さんが41歳のころのことです。

新しい法人になれば、当然ユニフォームも変わります。当時、新3年生は28人ほど。しかし、運営する法人が変わるからといって、保護者にもう一度ユニフォームを購入してもらうことはできないと田中さんは考えました。そこで、28人分の新しいユニフォームを、自身の退職金でそろえたのです。

その後、以前の法人から引き継いだ選手たちと、新たにアヴィエールとして迎えた選手たちが混在する時期を経ながら、少しずつ現在のクラブへと形を変えていきます。

「やっと今は、その前法人の色も消えて、もうアヴィエールっていう形にはなってきました。そこについては、4年かかりましたけど」田中さんは、そう振り返る。

現在では、次年度の入団予定者もすでに27人が決まり、各学年27人、計81人ほどの体制が見えてきました。セレクションにも約70人が参加するまでになったといいます。

消えかけていた中学生たちのサッカーの場所を引き継ぐところから始まり、約4年。

では、田中さんは、この所沢のクラブをこれからどんな場所にしていきたいと考えているのでしょうか。

所沢から羽ばたき、いつか所沢へ戻ってきてほしい

田中さんが見ているのは、選手たちがアヴィエールで過ごす中学3年間だけではありません。

ジュニアユースを卒業したあとも高校でサッカーを続け、さらに大学、その先へと進んでいく。クラブを、次のステージへ進むための土台にしたいと考えています。

「サッカーで羽ばたいていくっていうところの土台を、所沢で作っていきたい」

取材のなかで、田中さんはそう話していました。

もちろん、すべての選手がプロサッカー選手を目指すわけではありません。それでも、中学生の3年間でサッカーを終わらせるのではなく、高校、その先へと、それぞれの形でサッカーとの関わりを続けてほしい。

そして田中さんが思い描いている未来は、所沢から選手を送り出すところで終わりません。

外へ羽ばたいた選手たちが、いつか所沢へ戻ってくる。

「最終的に戻ってきて、うちでコーチをやってくれれば、それが一番いいかなと思ってます」

かつて自分が教わる側だったクラブへ、今度は教える側として戻ってくる。そこで次の世代の子どもたちを育て、その子どもたちがまた所沢から外の世界へ出ていく。

そんな循環が生まれれば、クラブに関わる人も少しずつ増えていきます。

田中さんは、アヴィエールというクラブを大きくすることだけを考えているわけではありませんでした。

選手だけでなく、指導者や保護者、クラブを支える人たちも含めて、サッカーを通じて所沢に仲間が増えていくこと。そのつながりが、この街に長く残っていくこと。

所沢で育った子どもたちが、所沢から羽ばたいていく。

そして何年か先、少し大人になって、また所沢へ帰ってくる。

田中さんが話す「未来」は、そんな長い時間の先まで続いていました。

サッカーだけではない。「自立と自律」を育てる3年間

FCアヴィエール所沢で田中さんが大切にしていることの一つに、「自立と自律」があります。

中学生の3年間は、身体が大きく変わるだけでなく、少しずつ親の手を離れ、自分で考え、自分で行動することが増えていく時期でもあります。

もちろん、クラブチームである以上、サッカーがうまくなるための練習は欠かせません。しかし田中さんの話を聞いていると、アヴィエールで過ごす3年間を、サッカーの技術だけを身につける時間とは考えていないことが分かります。

日々の身の回りのことから、学業や高校進学、成長期の身体をつくる食事まで。

その考え方は、グラウンドの中だけにとどまりません。

自分のことは自分でする

入団するとき、田中さんは保護者にも「自立と自律」というクラブの考え方を伝えています。

その一つが、忘れ物です。

「忘れ物したら届けないでくれ」

忘れ物をしたからといって、保護者がすぐに届けるのではなく、まず本人に失敗を経験させる。自分で準備し、自分の持ち物は自分で管理することも、中学生のうちに身につけてほしいことの一つだといいます。

普段の練習へ通うのも、基本的には自転車です。

最初のうちは道を覚えていなかったり、迷ってしまったりすることもあるそうですが、田中さんはそんな経験も含めて、少しずつ成長していく過程だと捉えています。

挨拶や身だしなみも同じです。

取材当日も、グラウンドへ到着すると、選手たちがこちらを見て次々に挨拶をしてくれました。

練習の準備も、終わったあとの片付けも、自分たちで行います。

小学生年代では大人が準備してくれることも多かったものが、中学生になると自分たちでやらなければならない。

サッカーをする以前に、自分のことを自分でする。

田中さんがいう「自立と自律」は、そんな日々の小さな行動から始まっています。

勉強・進路も大切な3年間

 

ただ、サッカーがうまければ、それだけで進学先を選べるわけではありません。

田中さんは、学業にもきちんと取り組んでいれば、高校進学の際に選べる学校が増え、サッカーを続けるための選択肢も広がると考えています。

実際に、3年生になると春からゴールデンウィークごろに進路説明会を開き、選手だけでなく保護者も含めて高校進学について考える機会を設けているといいます。

まずは食べることから始める

もう一つ、成長期の選手たちに繰り返し伝えているのが「食べること」です。

身体を動かす中学生、それも日々サッカーのトレーニングを続けている選手にとって、食事は身体づくりそのものにつながります。

ところが田中さんによれば、最近は食そのものへの関心が薄く、十分な量を食べない選手も少なくないといいます。

クラブでは年に2回ほど栄養セミナーを開き、専門家を招いて食事について学ぶ機会も設けています。

それでも田中さんがまず求めるのは、難しい栄養バランスの話より前の段階です。

「うどんが好きだったら、365日うどんでいいと思う。とにかく、うどんでもいいから食べないとだめ」

まず食べる。

そのうえで、身体をつくるために何を、どのくらい食べるのかを少しずつ身につけていく。

サッカーの技術、身の回りのこと、勉強、進路、そして食事。

田中さんが考える中学3年間の育成は、ボールを蹴っている時間だけではありません。

 

子どもたちを預かるクラブとして

中学生年代の選手を育てることは、サッカーを教えることだけではありません。

日々の練習では一人ひとりの成長を見ながら声をかけ、ときには叱ることもある。一方で、夏の暑さや冬の寒さ、遠征時の移動など、子どもたちを安全に預かり、無事に家へ帰すところまでがクラブの役割です。

田中さんの話を聞いていると、指導者として選手に向き合うことと、クラブを運営する立場として子どもたちを預かること。その両方を考えていることが伝わってきました。

今の中学生にどう向き合うか

田中さん自身も中学生、高校生、大学生までサッカーを続け、以前から指導者として子どもたちに関わってきました。

しかし、自分たちが中学生だったころと、今の中学生とでは、指導のあり方も大きく変わってきたといいます。

ただ叱ればいいわけではない。かといって、何も言わなければいいわけでもありません。

選手自身が考えて行動できるようにするためには、どこまで大人が手を出し、どこから本人に任せるのか。その距離を考えながら接しています。

その背景には、SNSなどを通して一つの出来事がすぐに広がってしまう現在の環境もあります。指導者側の何気ない言葉や行動であっても、以前とは比べものにならないほど慎重さが求められるようになりました。

一方、選手たちにとっては、AIがすでに身近な存在になりつつあります。分からないことがあれば検索するだけでなく、AIに聞けば答えが返ってくる。田中さんは、そんな環境で育つ子どもたちだからこそ、自分で考えたり、調べたりすることの大切さも感じているといいます。

時代が変われば、子どもたちも変わる。それでも、挨拶をすること、自分のことは自分ですること、周囲を見ながら行動することなど、中学生のうちに身につけてほしいことまで変わるわけではありません。

安全に預かり、無事に帰すまで

取材に訪れたのは8月下旬。練習中も蒸し暑さが残るグラウンドで、選手たちは何度も水分を補給していました。

クラブでは熱中症を出さないことを目標に、給水のタイミングを設けるだけでなく、身体を冷やすための冷却ウェアも導入しています。

注意が必要なのは夏だけではありません。冬には低体温症の危険もあるため、一年を通して選手たちの体調に気を配っています。

さらに安全管理は、グラウンドの中だけでは終わりません。

遠征や合宿ではマイクロバスを使って移動することも多く、田中さん自身が運転することもあります。

そこで重要になるのが、運転するスタッフの体調や睡眠時間です。

「人の命を預かっているんだ」

若いスタッフが十分に睡眠を取らないまま運転することがないよう、労務管理を含めて確認する。それもクラブを運営する側の仕事だと田中さんは話します。

事故が起きれば、クラブの評判が損なわれるだけではありません。

何より、その影響を受けるのは、そこでサッカーを続けている子どもたちです。

練習をして、うまくなって、試合に出る。

その当たり前の時間を続けていくためにも、子どもたちを預かり、無事に家へ帰すことまでがクラブの仕事なのです。

クラブを続けていくために

そして田中さんが考えているのは、目の前の選手たちのことだけではありません。クラブそのものを、この先も続けていかなければならない。

そのためには、指導者の情熱だけに頼った運営では限界があります。若い指導者が生活を成り立たせ、結婚や子育てをするようになってもサッカーの指導を続けられるよう、田中さんは副業を認めるなど、働き方についても考えています。

その一つとして構想しているのが、地域の企業との連携です。クラブと関わる企業から午前中にできる仕事を提供してもらい、午後からはグラウンドで指導する。サポーティングパートナーとのつながりも生かしながら、企業とクラブ双方にとってプラスになる関係をつくれないかと考えています。

選手を育てる。

指導者も育てる。

そして、その場所を次の世代まで残していく。

田中さんが考えるクラブづくりは、中学生の3年間よりも、ずっと長い時間を見据えています。

練習が終わって見えた「自立と自律」

この日の練習は、およそ2時間。

取材を始めたころからグラウンドに響いていた選手たちの声や、ボールを蹴る音、ホイッスルの音が、練習の終了とともに少しずつ消えていきました。

けれど、選手たちはすぐに帰るわけではありません。

それぞれが長いブラシを持ち、自分たちが使ったグラウンドをならしていきます。

誰かに細かく指示されるでもなく、ブラシを引いて歩く選手たち。ついさっきまでボールを追いかけていたグラウンドに、今度はブラシが土の上を通っていく音が聞こえてきます。

練習前、田中さんは「自立と自律」という言葉を何度も口にしていました。

自分のことは自分でする。

準備も、片付けも、自分たちでする。

そのときは、クラブの育成方針として聞いていた言葉でしたが、練習が終わったグラウンドを見ていると、それが特別なこととして行われているのではなく、選手たちの日常の中にあることが分かります。

グラウンド整備が終わると、選手たちは学年ごとに集まり、最後のミーティングへ。

話を聞き終えると、それぞれが身支度を始めます。

そして一人、また一人と、自分の自転車に乗って帰っていきました。

中学生の3年間は、身体も心も大きく変わる時期です。

サッカーがうまくなること。試合に勝つこと。その先の高校でもサッカーを続けること。

それと同じように、自分で準備をし、自分で考え、自分で行動することも、この3年間で身につけていくものなのかもしれません。

取材で耳にした「自立と自律」の言葉が、練習の終わったグラウンドで、形になって見えたような気がしました。


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